« 上機嫌、という作法 | Main | 土曜日のジムが終わった後で »

2011.11.04

『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』

20111104

増田俊也著•新潮社刊•2,730円

昭和の時代、格闘技が隆盛だった時代の、プロレス•柔道•空手を中心とした華やかではない方の時代史です。


資料や証人をもとに事実に迫っていく筆者の視点は、まさに歴史のデッサンを描いていく歴史家の視点です。


そんな姿勢が、僕ら昭和の時代の格闘技ファンが抱いていた多くの「幻想」を打ち砕いて行きます。


「梶原一騎格闘技史観」「プロレス最強論」「海外で修行して強くなって凱旋帰国」などといったできごとの多くが「格闘技という一つのビジネス」によって生み出されたもの、という認識は僕にとっては「見たくない現実」です。


これらから受けた影響、救い、憧れは計り知れないですし。


高校1年の現代社会の授業で「『猪木VSアリ』ってどーなのよ?」という先生に対抗し「プロレス最強論」を皆の前で語ったことがあるのですが、あの頃の僕がこの本を読んでいたら衝撃で立ち直れなかったかもしれないです(笑)


2段組みで700ページ近くあり、さらには「見たくない現実」をつきつけられるのでなかなかハードな本ですが、ラスト2ページは圧巻です。


僕が「格闘技がつまらなくなったなあ」と感じはじめたは、格闘技そのものが「幻想」を「幻想」だけで終わらせないようになったから、です。


「幻想」だけで終わっていた「夢の対決」が次々に量産され、業界内の人から「幻想」が白日ももとにさらされ、「あの人は強い!」と思っていた人が「そんなんじゃなかったな••」ってできごとが続いたから、ですね。


この本のラスト2ページは、「新たな幻想」を僕らの前に示してくれました。こんな「幻想」が醸し出す余韻、これこそが格闘技のもう一つの醍醐味なのだ、と。


筆者は18年もかけて執筆されたそうです。素晴らしい仕事、ですね。

November 4, 2011 |

TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference 『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』:

Comments

鬼の柔道さん> コメントありがとうございます!

異端ゆえの悲哀を味わったこともあったと思いますが、同様に異端ゆえの精神の開放感のようなものも味わっていたんではないでしょうかね。

異端でないゆえに異端を演じる、てことがあると人間疲れるでしょうし。実際、そういう人が多い社会になってるな、とも。

ルスカの試合はビデオでみたことあるんですけど、ヘーシンクは東京五輪の決勝しかみたことないんですよ。

全盛時代の両者が戦ったらどっちがつよいか?は分かりませんが、こうした想像にどっぷりつかるのが格闘技の持つ余韻、だと思います。

今の時代は余韻を感じさせないほど、忙しくなってしまったのかな、なんて思ったりもしたり。

Posted by: 大塚和彦 | Nov 7, 2011, 10:36:48 AM

昭和の格闘ファンさん> コメントありがとうございます!まさに、『空手バカ一代』にも比類するような壮大なスケールの物語でした。

『空手バカ一代』の終わり方にはいまひとつ「ネタが尽きたかな••」がありましたが、この本は次につながるような期待感があるのが素晴らしいですね。

いつか、ラスト2ページを検証するような物語がでたら素晴らしいな、と!

Posted by: 大塚和彦 | Nov 7, 2011, 10:28:43 AM

世界チャンピオンだったルスカやヘーシンクも全盛時代の木村政彦にはまったく歯が立たなかったとは多くの証人が語っている事実。

グレイシー柔術にも大きな影響を与えた功績者ですが、残念ながら、柔道界では異端児のような扱いを受けているのが残念です。

いつの時代にも、異端児が時代を切り開き、主流派からは一歩距離をおかれるのかもしれませんね。

Posted by: 鬼の柔道 | Nov 5, 2011, 7:21:20 AM

私も読みました。壮大なスケールの物語で、知らない事実がたくさんありました。ある程度の知識がないと読むのは大変かもしれませんね。それにしても夢のある終わりでしたね。想像しただけでワクワクします。

Posted by: 昭和の格闘ファン | Nov 4, 2011, 5:15:26 PM

Post a comment