2005.05.09

旅するノート

ある国に「夢は大好きな場所を旅行して歩くこと」という女の子がいた。けど、貧しい彼女にとって海外は夢のまた夢。海外は距離的にも経済的にも庶民には手の届かない時代の話。女の子は考えた。自分が可愛がっている人形に海外を旅してもらおう、と。


彼女は空港に向かい、これから海外に行く人に人形をたくした。首には小さなノートがかかっており「この子は文字が書けません。お願いです、この子が訪れた場所のことをこのノートに書いてもらえますか?」と一言。更に、「この子はいろんな場所にいきたがってます。あなたが旅先で知り合った方でこの子を預かってくれる人がいればぜひお願いしたいのです」とも。その人形はある人の良さそうな老夫婦にたくされてアメリカへと向かった・・・。


それから数年、世界各国の見聞録が記された汚いノートを首に下げた人形が彼女のもとにかえってきた。多くの方の善意が彼女と人形に壮大な旅をさせたのだ・・。

そんな話をベトナムで聞いた僕は、早速パクろうと思った。翌日ノートを買って、自分のプロフィールと旅先の情報をまとめて、大阪から旅行に来ていた女性に託した。「このノートが訪れた場所のことを何でもいいから書いて、とにかく信用できそうな人にこのノートを託してくれ」とお願いをして。


もう一言、「ノートを受け取った方へのお願い!ハガキに一言でいいので今○○にいます!と書いて送ってください。あと、一番最終ページまできたら僕の自宅まで宅急便で送ってください。」とノートの表紙に書いておいた。


ベトナムで誕生したこのシステム(?)は僕の名字をとって「大塚ノート」といわれた。1册だけでは心もとなかったので、ベトナムで2册、タイで1冊、チベットで2册、ネパールで1冊、インドで1册が知り合った旅行者へと手渡された。


数カ月後、世界各地よりエアーメイルが届くようになった。


「ベトナム→香港→北京→ウルムチ→パキスタン」とやってきました、と神戸の旅行人から手紙が届いた。「インドでノートを受け取った!なんて素晴らしいプロジェクトだ」となぜかドイツ人から英語で手紙が届いた。バングラディッシュから、イスタンブールから合計で10通くらいのノートの旅行情報が寄せられた。


「これは1年もたてば日本に帰国するノートもでてくるな」と思った頃から急に情報がなくなってしまった。旅人達の善意が前提となっているこのプロジェクト。伝言ゲームのため趣旨が伝わってないのだろうか?半年ほどでぱたっと情報がとまってしまった。


僕が世界へと旅立たせた7册のノート。一体いまどこを旅しているのだろう?どこかの安宿の片隅で埋もれて沈没しているのだろうか?それとも、アマゾン川あたりで藻屑となってしまったのだろうか?そんなことを考えると興味はつきない。


ノートの旅立ちから8年がたった。もはや帰国は難しいかなと思うが、まだ幾許かは諦めきれていない。いつか自宅のポストに汚くなったノートが投函されるのを夢見るのもなかなかおつなものだ。


何か「大塚ノート」について知っている方、ぜひ情報をください!

May 9, 2005 in 旅でのできごと | | Comments (0) | TrackBack (0)

2005.05.08

麻薬捜査に入った警察官に

映画「ミッドナイトエキスプレス」を10年以上ぶりに見た。トルコの空港で麻薬所持で逮捕されたアメリカ人男性が拷問やらいつ果てるともしれない監獄生活に精神を磨耗していく話。


数年前にタイを舞台にした同じような映画(主人公は女性2人だった)があった。けど、緊張感をあおる映像や主人公が精神的に参っていく様子は、「ミッドナイト〜」とは比べようもない。とても重〜い映画だけど一見の価値はあるだろう。

「もし、俺のバックの中に麻薬入れられてたらしゃれにならないな」という感情は、長い旅をしている人なら一度はもったことあるのではないだろうか?


ちょうど、僕が旅行していた頃、ヨーロッパの人がマレーシアで死刑になったという話を聞いた。議員はおろか、首相クラスまでがマハティール首相に嘆願をしたらしいが死刑は執行された、という。なんでも覚醒剤の密輸だったらしい。


この麻薬の密輸、というのは自分が知らない間に運び屋になっているということもあるそうだ。僕は国境をこえる時には荷物に何かまじっていないかを確認しながら旅をした。


そんな僕が、一度だけタイで肝を冷やした。明け方4時くらいだろうか、激しくドアをノックする音が聞こえる。「policeだ!」といっているようだ。ドアを開けると警官が3人と麻薬犬が飛び込んできた。所持品検査をする、といっているらしい。


僕が宿泊している宿は密売人がいる、といわれている宿だった。たまに抜き打ちの検査があるとは聞いていたが・・とはいえ僕はやましいことはない。面倒だな、と思ったがきちんと従おうと思った。


その瞬間、不吉なことを思い出した。


僕はある旅行者から漢方薬のようなものを預かっていた。カンボジア人のドクターが調製した薬で体のふしぶしが元気になる薬だという。ちょうど、両手いっぱいくらいで見た目は大麻に似ている。彼は1年間以上の旅に出るので一足先に帰国する僕に荷物を託したい、といわれて軽く引き受けたのだ。


けど、それが純粋な薬かどうかは分からない。というより、その荷物を預けた人も長年の友人というわけではなく旅先で数日前に知り合った仲だ。一瞬のうちに「彼のいっている事にウソがあったら」と青ざめた。麻薬密輸に関してよくある話だ。「知り合った人から預かったんです」は通用しないのが世界の常識だ。


警官は僕のバックパックの中から荷物をだしはじめた。人間の心理は正直だ、例の薬が入ったビニール袋に僕は目を向けてしまった。それを見たのか、警官が袋を開けろ、という。中から出てきたのは葉っぱ、見た目は乾燥大麻に似ている。


「これは何だ?」との問いに「健康のための薬だ」といった。「どんな健康だ?」といわれたので咄嗟に「あっち系の薬だ」と夜に役立つ薬と適当なウソをついた。緊迫した雰囲気にちょっとでも警官を笑わせないと、思ったからだ。


警官は麻薬犬に薬の臭いを嗅がせる。その時、犬に土下座してでも媚びたい、と思った。この犬のためだったら何でもいうことを聞く、と思った。わずか数秒がとてつもなく長いように思えた。


結局、僕はシロだった。一気に脱力した。冷静になってみると足音や声から推測するに十数人でガサにはいっているようだ。タイが麻薬撲滅に本気だから変な宿にはとまらないほうがいい、という噂は本当だった。翌朝、聞いた話によるとイスラエル人のカップルが捕まったそうだ。異国の地でなんちゅうこと!だが自業自得だ。それが自発的に所有していたものなら。


それ以降、何があっても素性の分からない荷物を預からない、というのを決めたのはいうまでもない。


May 8, 2005 in 旅でのできごと | | Comments (0) | TrackBack (0)